呉安浦体育館少林寺拳法教室 人づくりのストーリー
少林寺拳法を習える団体には種類があります。たとえばスポーツ少年団、中学・高校・大学の部活動などです。これらの団体には共通点があり、いずれも所属できる期間に制限があります。スポーツ少年団は小学生から高校生まで、部活動は学校を卒業するまでです。
では、呉安浦体育館支部はどうかというと、実は、全く年齢制限がありません。園児から入会できますし、そのまま、中学、高校、成人してもずっと所属することができます。「体育館支部」は、私(支部長)のような若手指導者が所属長を務めることを条件に、誰でも所属してよいということになっているのです。実際、高校生になっても、大人になっても、少林寺拳法を続けたいといってくれている中学生拳士は何人もいます。
では、これからそういう拳士たちを、どういう風に育てていくのか。また、幼稚園児、小学生から少林寺拳法を始めて、ずっと継続したとしたら、どういう風に成長していくのか、ひとつのビック・ピクチャーを用意しました。それが次の図です。

園児につけたい力
一番下の、園児のところから見ていきます。矢印の右側が、園児につけたい力、三つあります。一つ目は体幹を強くすることです。子どもコースの練習では、「コアキッズ体操」という、子ども向けの体幹トレーニングを実施しています。体幹を鍛えると姿勢が良くなり、安定して運動できるようになります。まさに土台づくりです。二つ目は集中力です。先生を見てまねをしたり、先輩に教えてもらったりすることを通して、集中の仕方を学ばせます。三つ目は、他者への信頼を育てること。人見知りをしたり、もじもじしたりする子どもは多いですね。よく知らないものは、怖いのです。道場には、よく知らない地域の大人、お兄さんお姉さんがいます。よく知らない人たちだけど、みんな、小さい子に親切です。園児は、「他者は信頼できる」ということを学んでいきます。そのうち、いろんな人と関われるようになります。そしてその関わりから、さまざまなことを勝手に学んでいく。これが、園児の段階での強さだと私は考えています。
小学生につけたい力
さて、小学生です。矢印の左側を見てください。小学校に入学したら、いよいよ昇級試験です。まずは8級。黄帯です。小学校生活に慣れてきたら、通常コースへ参加します。まずは土曜日、次に月曜日と段階的に慣らしていくのがおすすめです。次の6級は緑帯、小学校4年生が目安です。なお、小学校4年生の人は、白帯でも6級に飛び級することになります。最後に3級は茶帯。小学校5年生、6年生での取得が目安です。
矢印の右側を見てください。小学生につけたい力も、三つにまとめました。一つ目は、基礎的な技を体で覚えることです。小学生になると、いよいよ技の稽古が始まりますが、小学生には、比較的安全な、基礎的な技だけを教えることとなっています。基礎的な技を、何度も反復して稽古し、勝手に体が動くという段階まで練り上げます。武道というのは、考えてから動くのでは遅いのです。いざというとき、反射的に体が動くところまで身につけて初めて、いくらか使えるものになります。二つ目は、少林寺拳法が「人づくりの行」であることを理解することです。少林寺拳法にはさまざまな教えがありますが、その根底にあるのは、世の中の役に立つリーダーをつくりたいという、創始者の思いです。単に技が上手い人間になるために修行するのではない。大会で賞をとるために修行するのではない。自分自身が強い人、優しい人になり、半分ぐらい他人のことを考えて行動できる人になるために修行するのだ。難しい教えはさておき、こういう根本的なところは、小学校段階で理解してもらいたいと考えています。三つ目は、社会性を高めることです。一般的に、武道をやると礼儀が身につくといいますが、それはなぜか。私は、異年齢の交流に鍵があると思います。学校は、同世代で過ごすことがほとんどですが、道場は違います。いろんな年齢の人がいる。経験年数もそれぞれです。そのなかで、年長者を敬い、年少者を大切にする。相手を尊重することを身につけていきます。特に、親や先生以外の大人との関わりは、非常に貴重だと考えています。今の時代、学校や地域社会では、ほとんど体験することができなくなりましたから。
中学生につけたい力
では、中学生にいきましょう。まずは矢印の左から。中学生の目標は、初段取得です。黒帯ですね。初段は、広島市の試験会場で受験します。小学生が受験する少年部初段と、中学生以上が受験する通常の初段があり、少年部初段のほうが簡単です。どちらを受験するかは入会のタイミングで変わりますが、いずれにしても中学生で黒帯を締めてもらいたいと考えています。また、中学生になると中学生大会への出場ができるようになります。中学生大会は、全国大会への出場枠が多いです。県大会は1位だけですが、中学生大会は3位まで全国大会に出られます。全国出場は、高校受験においても実績としてアピールできますから、ぜひ、チャンスを掴んでほしいです。
矢印の右を見てください。中学生に身につけさせたい力です。一つ目は、本格的な技を学び、技術を高めること。中学生になると、小学生のうちは教えてもらえなかった、投げ技や固め技などが解禁されます。練習していて「面白い!」から、練習していて「すごい!」に変わります。その「すごい」技を身につけていく。これが中学生の修行です。二つ目は、少林寺拳法の教えを理解し、心の拠り所とすることです。思春期は不安定な時期です。心身のバランスが崩れそうなときに、どうするか。そういうときに、少林寺拳法の教えを心の拠り所にしてほしい。大人でも、しんどいときに、自己啓発書を読んだり、セミナー通いをしたりすることはあります。何か心の拠り所がほしくなるのですね。自分には少林寺拳法の教えがある。聖句、誓願、信条と、何度も何度も唱えてきた。これを拠り所にして、思春期を力強く乗り切ってほしい。そう考えています。三つ目は、他者の成長に貢献し、自信をつけることです。中学生まで修行を継続したら、もう、初心者の指導ができるレベルです。実際に、初心者の手をとり、上達させてあげることで、自分も人の役に立てるのだということ、実感してもらいたい。これが自信になるはずです。
高校生につけたい力
高校生です。これから高校生になる人はよく聞いてください。まず矢印の左側、武専入学を推奨、としています。武専とは、指導者になるための講習会のことです。年に6回あり、私も参加しています。高校生まで継続した拳士には、私とともに武専に参加してもらい、指導者レベルの教えと技法を学んで欲しいと考えています。次に、二段取得。一般初段を取得していない、少年部初段の拳士には、ハードルが高くなりますが、挑戦して欲しいと考えています。また、高校生は、高校生大会に出場できます。高校生大会の上位大会はインターハイです。もちろん実績になりますから、インターハイを目指して欲しいですね。
矢印の右です。高校生の修行の一つ目は、技法、とりわけ口伝の伝承を受けることです。口伝とは、口伝えの技ということです。少林寺拳法の技のやり方は、大まかには教範に書いてありますが、技のコツにあたる部分は、「師匠から教わりなさい」とあり、全く書いてありません。技には、絵にも言葉にもできないコツがあり、これは師匠から直接手をとって教わるしかありません。これが口伝です。伝承の性質上、口伝の内容は、先生ごとにかなり異なります。私がもつ口伝の技術は、広島芸南支部の橋下先生から教わったものが大半です。そのため、広島の先生方からは「橋下先生の弟子」と言われています。高校生まで継続した人には、この口伝の伝承を始めます。これを身につけていくことで、橋下先生、黒田先生とつながる指導者として、広島県内どこでも信頼してもらえるようになります。例えるなら、「私はただの牛肉じゃなくて、神戸牛だよ」と。産地を保証することで、信用につながるわけです。二つ目は、少林寺拳法の教えを生かし、自他を支えること。中学生は、少林寺拳法の教えで自分を支える。そして、高校生は、少林寺拳法の教えで他人も支える。半ばは自己の幸せを、半ばは他人の幸せを。ここまで修行を継続した拳士なら、体現できるはずだと考えています。三つ目。他者の模範となれるように行動する、です。黒帯を締めた高校生というのは、園児や小学生から見れば、本当にかっこいい憧れの存在です。憧れの眼差しで見られているということを意識して、行動していかなくてはならない。「まだまだ自分は甘い」と自覚しながらも、模範になれるように努力する。これもまた一つの修行です。
高校卒業後の修行
最後に高校卒業後です。安浦を離れる人もいると思いますが、少林寺拳法はどこでも修行できます。ぜひ、大学やほかの道場で、継続してほしいと願っています。もちろん、安浦にいる人は、そのまま継続してもらいたいです。では矢印の右側です。大人の修行は三つ。一つは技法の探究、二つは仲間作り、三つは、自信と勇気と行動力をもち、人生を拓くこと。強調したいのは三つ目です。これは少林寺拳法を通して育てたい人間像ですが、自信と勇気と行動力というのは、誰もが、人生を拓くために必要なものだと私は考えています。
例えば、大学に入学し、気になる女の子ができた。声をかけてみようか、いやできない。だって自分に自信がないから。……自信がないと始まらないんですよね。あるいは、声をかける決心をしたとする。でも、彼女の前だと肝心なことが何も言えない。これは勇気がないから。……勇気がないと、前に進まないんですね。あるいは、彼女のことが気になるなあ、と部屋のなかで考える。だけど、考えているだけで、結局何もしない。これは行動力がないということ。行動しなければ、悪いことも起きませんが、良いことも起きません。それで一体、よろしいのか。
「あの時、自信があれば、勇気があれば、行動していれば」という後悔は、どうしようもないものです。なぜなら、あの時、自信が、勇気が、行動力があれば、本当に人生は違っていたかもしれないんです。だからこそ、呉安浦少林寺拳法教室は、少林寺拳法を通して、自信と勇気と行動力を持って、人生を拓く力をつけたいと考えています。これが、このビックピクチャーの終着点、目指すところです。
こうして見ていただいたように、少林寺拳法の修行には長い時間がかかりますが、私は、一人一人を、ここまで連れて行きたいという思いで指導しております。安浦は地域柄、保護者様の送迎がなければ、継続できない子供も多いかと思います。是非とも、ご理解とご共感をいただき、お付き合いください。今後とも、長くお付き合いできれば幸いです。どうぞよろしくお願いします。